第3回 
 船が緑島港を離れてから約3時間。やっと揺れない大地を踏みしめることができました。ガソリンの匂いがたちこめた船に長時間乗っているのはとても辛く、無事に蘭嶼島にたどり着けたことを感謝しつつ、先ずは大きく深呼吸。船酔いの薬か、はたまた体質かはわかりませんが、大勢の人が船酔いでゲーゲー苦しむ中、私は揺れる船を楽しみながら鼻歌なんて歌っちゃう余裕があったのですが、ガソリンの強烈な匂いには悲しくもノックアウト。島のさわやかな空気が美味しくてたまりません。そしてこの暑さ!汗が一気に噴出してきます。これこそが台湾の夏なのです!

 蘭嶼島は台東県の東南、沖合い約90km地点に浮かぶ小さな孤島です。火山の爆発により隆起した島で、島の中央には紅頭山など500mを越える山が並んでいます。広い海の真ん中に、神様が帽子を落としたような形をしているんですよ。周囲はさんご礁に囲まれ、ダイビングの隠れたメッカでもあります。また、この島に住む原住民のヤミ族は、はるか昔、フィリピンのバタンから船で渡ってきた人々の末裔と言われています。なんだかとても、ロマンチックな島だと思いませんか?


◆ 伝統家屋が並ぶ野銀村

 最初に野銀村の家を見た時、興奮を隠すことができませんでした。ヤミ族の伝統的なスタイルで建てられたこれらの家は、数メートルの深さに掘られた穴の中にすっぽりはまるよう、ゆるやかな傾斜に沿って建てられています。家と家の間には緑の草が生い茂り、豚やヤギがうろうろ。民宿の女性オーナーはヤミ族の出身で、浅黒い肌とくっきりした目鼻立ちが印象的。台湾本土の人々とは、明らかに民族が違うことがわかります。

 独特の言葉を持つヤミ族のオーナーさんは、あまり北京語が上手ではありませんが、それでも一生懸命、島の魅力やみどころを説明してくれました。この家は民宿と工房を兼ねていて、キレイに石を組み合わせた壁に、様々な女性の像が彫られています。屋外は30度を越えているというのに、家の中は海からの風が通りヒンヤリしています。母屋の前に置かれた「靠背石」に座り、しばらく海を見つめていましたが、夕食前にバイクで島を回ってみることにしました。

 村を出ると、人の姿はほとんどありません。外にいるのは、僕らと、のん気に草を食べるヤギと、ちょこまか歩く、子供をつれた大きな豚、そしてカニぐらい。遠くの丘の上に見える白い建物の気象台を目指そうとバイクスタート。風を切って走る、走る、気持ちいいー!!・・・と思ったものの、道の勾配は次第に急になり、バイクもギシギシ、プスプスいいはじめました。こんなところでエンコだけは、やめてくださいよ・・・。

 やっとの思いでたどり着いた気象台からの眺めは最高!360度、青い海の水平線、白い入道雲がわき立つ空、そして緑の山々が見渡せ、自分が王様になったような壮大な気分。もう最高です。なんだかとってもうれしくなって、海に向って叫び、草原を跳ね回っていたら、ふと感じる冷たい視線。ホルスタイン柄の大きな犬が、なんだお前は・・・・って冷たい顔で、僕をじーっと見つめています。なんだか照れてしまった僕は、バイクにまたがり、そそくさと下山したのでした。

 野銀村へ帰った後は、村の子供たちと「コオロギ相撲」スタート。これは足に細い糸を結びつけたコオロギを戦わせる、中国の伝統的な遊びです。そういえば子供の頃、家の近所は田んぼや畑ばかりで、よくコオロギを取って遊んだなぁ。今の都会の子供は、こんな遊びなんて知らないんだろうなぁ・・とノスタルジーにふけっていたのが災いしたのか、連敗、連敗、また負けた・・。子供たちの笑いを背に、とぼとぼと民宿へ戻る僕でした。

 民宿のテーブルには夕食の皿がずらりとならび、美味しそうに湯気をあげています。魚や貝は全てオーナーのご両親が近くの海から獲ってきたものばかりで、鮮度が抜群だからこそ、軽く煮るだけで天然の甘みが出てくるのだとか。

 野菜も全て自分で育てたものばかり。いずれもシンプルに焼いたり、煮たりしただけの、ヤミ族の素朴な料理ばかりですが、都会では決して口にすることができない、天から授かった旨みを堪能することができました。デザートに出されたのは、この島特有の「龍眼」です。一般の茶色い龍眼と比べ、その大きさは倍以上。そして輝く緑色をしています。甘みと果汁もたっぷりで、これが龍眼とは信じられませんでした。

 野銀村の夜は早く、夕食が終わって外に出ると、灯っている明かりは数えるほどしかありません。その代わり、見上げるとこぼれんばかりの満天の星。この島の夜は、地上よりも空の方がにぎやかなのです。草原に寝転がると、民宿の子犬が嬉しそうにじゃれついてきました。

 今日は星に抱かれて眠ろう。そう思う僕の耳に、潮騒だけが聞こえてくるのでした。


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第2回 秀姑巒渓


つづく